【読書感想】吉田修一 / パレード

どうも、新人営業ぬまじり(3年目)です。待ちに待ったお盆休み。外出自粛とか関係なく、一日中家に引き籠っております。当然冷房も一日つけっぱ。涼やかな人工の風に吹かれ、会社のお中元クジでゲットしたコーヒーを飲みながら読書をする優雅な昼下がり……。

 

 

そして読んだのがこちら。吉田修一で「パレード」です。初出は2002年。第15回山本周五郎賞を受賞した作品とのこと。都内のマンションで共同生活を行う男女4人(途中から1人増えて5人)の視点から語られる群像劇です。

 

各々の語り口は軽妙でスラスラと読み進めることができます。各キャラも、それぞれで心に暗い部分(というかヤバい部分)を抱えつつも、魅力的な所もあったりで好感が持てる。

 

特に第4章のサトル。擦れた少年という感じだった彼が、不思議と居心地の良いこの共同生活に毒され、段々と心を開いていく様子には「あ~、なんか人情ドラマっぽいなあ~」と思わせられましたね。

 

でも、その感覚も第5章を読むまでの話。最終ページまで読み切った時、ある種平和な物語に思えたこれまでの印象がひっくり返るような感覚がありました。あな恐ろし。

 

この奇妙は共同生活は、他への徹底した無関心によって保たれています。

 

ここで暮らしている私は、間違いなく私が創り出した「この部屋用の私」である(「この部屋用の私」はシリアスなものを受けつけない)。

 

「だから、みんなが知ってるサトルなんて、誰も知らないんだよ。そんな奴、この世には存在しないの」

 

目の前にいる同居人が、家の外で何をしていようと、腹の中で何を思っていようと関係ない。この生活の中でしっかりと役割を果たしてくれればそれで良い。一緒にテレビを見て笑い、時には悩み事の相談もする彼らの心の奥底には、そんな冷え切った無関心があります。

 

語り部となった全5人のうち、後半に出てくる奴ほど「こいつ、ヤバい……?」と感じましたが、全部読み終えるとむしろ前半の奴のほうがヤバいなと思いました。よくあんなに平和に過ごしてこられたなと。

 

特に最初の語り部、良介。ヘラヘラとして頼りなく、気になっている女性にアピールするため、その会食に参加する全員分の台本を書いてくるようなヤツ。それでいて、その才能だけで一生上手くやっていけそうとまで称される天然の甘え上手。何とも言えない魅力をもった青年です。

 

しかし、改めて考えてみるとこいつが一番不気味に思えてくる。一番、心に一物を抱えていそうな、そんな印象を抱いてしまいました。読み進めてる時は抜けてるところもありつつ、人のよさそうな奴だなあと思っていたのに、この感覚の転換には驚きです。

 

平和なようでその実、背筋が冷たくなるような現実を孕んでいたこの共同生活ですが、これに近いことって、現実でもあったりするよな」とも思います。

 

何か事件が起きた時、大抵犯人がいた学校や会社に取材が入りますが、返答は大抵「そんなことするような人だとは思わなかった」みたいな感じですよね。

 

自分に目を向けていても、学校や会社で見せていた自分が、本当の自分だとは言いませんし、だからといって、嘘をついているとも思えません。それが当然のことだと思うからです。

 

一緒の場を共有する人も同じことだろうし、その裏の顔を詮索するつもりもありません。そういうことをする人は、大抵集団から追放されます。でも、それが何か犯罪とか、社会的に問題のある行いだったのなら話は別になってくるはずです。

 

「パレード」の登場人物たちが恐ろしいのは、「自分の平穏な生活」と「社会秩序」を天秤にかけた上で、前者を選んでいる、その倒錯した感覚によります。なんか大変なことになってるみたいだけど、自分の生活に影響がなけりゃそれでいいや、みたいな。

 

逆に言えば、共同生活に影響を出しそうな行動等については、彼らは敏感に反応をします。だからこそ一瞬ではあるものの迷惑そうな顔を浮かべたり、面倒くさそうに返答をしたりしたワケです。

 

ライトな読み口ではありますが、人間関係におけるヘヴィな部分を扱っている小説だと思いました。本当に読みやすいので、少し時間が空いているという方にはおススメしたいです。

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