君の笑顔が忘れられないんだ 坂口安吾 / 夜長姫と耳男①

 

さて、今日は僕の好きな本を紹介します。前の記事でやろうとして、導入部分の話が長くなりすぎて流れてしまったやつです。軽めの本が好きです! とかその記事中で抜かしておりましたが、今回はちょっとカッコつけて文学作品。齢23。見栄を張りたいお年頃です。

 

坂口安吾 / 夜長姫と耳男

 

僕が読んだのはこの本にて。

 

 

講談社文芸文庫、坂口安吾『桜の森の満開の下』の中に納められています。大体50ページくらいの短編です。このくらいが読みやすくて丁度いいですね。青空文庫でも読めるので、気になった人は是非どうぞ。

 

青空文庫-坂口安吾『夜長姫と耳男』

 

まず簡潔にこの話の概要を述べますと、師匠の代理で夜長の里の長者の元へ赴き、3人の匠と腕を競いつつ姫のための護身仏を彫ることになった耳男と、その姫(夜長姫)との話なのですが、この夜長姫がくせ者。ぶっちゃけヤバイ女。そのヤバイエピソードを耳男視点でちょっと列挙してみましょう。

 

・俺の片耳を切り落としやがった女が死刑になろうとしているが、どうでもいいので命を救ってやった。……と思ったら、姫が女に残った俺のもう片耳を切り落とせと命じた。で、切り落とされた。

 

・俺の小屋に姫がやって来た。めんどくさいのでスルーしようとしたら、俺の小屋に火をつけようとしてきた。

 

・復讐の想いを込めて彫った恐ろしい護身仏を「一番気に入ったと」抜かしてきた。着せられた下着はあの俺の耳を切り落としやがった女が自殺した時に着ていた着物を使って仕立てあげられたものだった。

 

・流行り病で死んでいく村の人々を見て、最高に楽しそうな笑顔を見せる。

 

……などなど。夜長姫はこーんなヤバイ女です。無茶苦茶純粋で残酷で、でも桁外れに美しい。耳男はそんな彼女に一瞬で心奪われてしまいます。

 

上述の通り、耳男は夜長姫への復讐の想いを込め、仏ではなく、化け物の像を彫ると誓い、それから3年かけて実際に恐ろしい造形の像を完成させました。己の計画を着々と遂行する耳男でしたが、その胸中はと言えば、

 

オレがノミをふるう力は、オレの目に残るヒメの笑顔に押されつづけていた。オレはそれを押し返すために必死で戦わなければならなかった。

 

もう姫にメロメロなワケです。姫の笑顔が瞼の裏側に張り付いてしまって、忘れられないのです。

 

でも耳男には姫への憎しみがありますから、その笑顔を振り払って化け物の製作に励みます。水を被ったり、土踏まずを焼いたり、蛇を狩ってきて生き血を絞って飲んで死骸を部屋に吊るしたり、ウサギや狸や鹿のはらわたを撒き散らし、生き血を像にぶっかけたりして必死に姫の笑顔に抵抗します。

 

いわゆるツンデレってヤツです。これが伝家の宝刀、「あ、アイツのことなんか、全然好きじゃないんだから!なのに、なんでアイツのことばっか考えちゃんだろう……」です。いやー、可愛らしいですね。

 

しかしながら、耳男の網膜に焼き付けられた姫の笑顔とは、耳男がまさに耳を切り落とされた瞬間の笑顔、耳を切り落とせと命じた時の笑顔、また数多の蛇の死骸がぶら下がる耳男の作業場を見た時の笑顔なのです。げに恐ろしや。

 

そのことに気づいた耳男はこう述懐します。

 

本当に恐ろしいのは、この笑顔だ。この笑顔こそは生きた魔神も怨霊も及びがたい真に恐ろしい唯一の物であろう。

 

……長くなってしまったのでこの辺で一回切ります。どうも僕の脳みそには「簡潔に書く」という言葉がないようですね。好きなものを語るとどうしても饒舌になってしまうし、あれもこれも!ってなって収集つかなくなってしまいます。陰キャ特有の性質ですね。これがジャパニーズ・インキャや。

 

世界において唯一恐ろしい物とまで言われた笑顔を持つ夜長姫。次回は彼女を中心に書いていこうと思います。

 

 

 

0PEOPLE